保健室にK子を運び込むと、室内に女子が一人で本を読んでいた。
見覚えがあるが、誰だっけ・・・?
・・・・・・思い出した!
幼馴染のS美である・・・。
ツンツンしていて人間味が乏しく、俺の苦手な女である。
しまった、そう言えばS美は保健委員だった。
なぜか俺は、直感的に身の危険を感じた。
「あら?
一体どうしたの?」
だが相変わらず、事務的な口調でS美は聞いてくる。
男をさげすむような気位の高さは、昔のままで変っていない。
もう少し、人間味があっても良いと思うのだが・・・。
それならこっちも、ビジネスライクで構わないだろう。
「ちょっと、怪我人を見てくれるかな?」
俺はK子をベッドに降ろす。
「まぁ、随分しばらくぶりね?」
えっ?
意外な一言だ・・・。
俺は、予想外の言葉に思わず躊躇した。
「あ・・・あぁ、しばらく・・・。」
途端にK子が睨みつけてくる。
くそ~っ、S美め・・・俺の事を覚えてたってのか?
「ちっとも保健室に顔出さない人が、珍しいわね・・・?」
まったく、嫌味な女だ・・・。
だから苦手なんだよ・・・。
「いや、そうそう頻繁に怪我していられないでしょ?」
嫌味には、嫌味で対抗する。
「そうじゃないわよ・・・。
少しくらい、ココへ遊びに来なさいって言ってるの・・・。
わたし、大概居るから。」
おや、意外にストレートな答えだ・・・。
だがK子の前では、言って欲しくない言葉である。
これは、後でなだめるのが大変だ・・・。
「わかった、わかった・・・。
その内にな・・・?」
でも・・・いつからココ(保健室)は、バーの類になったんだ?
この応対、まるでドラマに出てくる飲み屋のママだぞ?
もしかして、女房同伴でキャバレーにでも行った気分って、
今のこんな気分なのかもしれない・・・。
保健室内の空気が、異様に張りつめているのがヒシヒシと感じられる。
なんか鋭い視線が、深く背中に突き刺さってくるのを感じるんですが・・・。
そして、とっても怖くて振り返りたくない気分なんですけど・・・。
ああ、早急にココから退避したい・・・。
「ともかく緊急事態だ、コイツを見てくれるかな・・・?」
「へ~っ・・・。
抱きかかえてきた上に、コイツ呼ばわりなんだ・・・。」
だからなんなんだよ、その反応は・・・。
まるで嫉妬でもしてるみたいじゃないか?
まぁ、思い当たる節が無い事も無いような・・・。
あっても、随分昔の話だぞ?
ちょっと待て、今はそれどころでは無い!
ともかく、K子の怪我を治療することの方が先決だ。
「階段を踏み外して、落下したみたいだ。
骨折はしてないみたいだが、足のあちこちに擦り傷がある。
たぶん、足首がこれから腫れ上がってくると思う。
だから早急に治療をお願いしたい・・・。」
「分かったわ・・・。
あなたからのお願いじゃ、しょうがないわね・・・。
じゃ服を脱がせるから、出て行ってくれる?」
「わかった。
よろしく頼むよ・・・。」
「じゃぁ、私とC子で付き添ってるからね?」
保健室のドア手前で、U子がすれ違いざまに俺に言う。
「それじゃ、二人とも・・・頼むな?」
K子の付き添いをU子とC子に任せ、我々男子は教室に戻ることにした。