と、いうことで「シュガー・ラッシュ」。
なんといっても、キャラクターの表情がすばらしい。
特筆すべきなのは主人公ラルフ。
カートゥーン特有のちょっとカリカチュアライズされたさまざまなキャラクターとしての表情が余すところなく、ほとんどのカットで表現されている。
特筆モノなのは、ジャンクヤードでゲーム・シュガー・ラッシュのドライバーたちに手作りのレーシング・カートを破壊されたヴェネロピーが、ラルフ相手にメダルのことでからかうシーン。さっきまで自分同様に悲しい目にあっていたヴェネロピーが一変しラルフ相手に喋り捲るが、この小憎らしいガキに対して即座に言い返せない時の一瞬一瞬の表情が実にみごとだ。
欧米では、キャラクターの表情を実際の俳優の演技を研究して、つまり、日本の様にキャラクターの表情を漫画として成立している記号化されたものとしてあつかうのではなく、実際に人間、特に俳優が演技として成立させているものを絵としてどう表現するかを研究するわけ。こういう表情研究は俳優自身、アクターズ・スクールなどで訓練を積むものでもあるが、こういう作業が見事に生きている。おっさんキャラクターのラルフは古いゲームのキャラクターということで目も小さくシンプルなデザインなのだが、このラルフの表情のつけ方、目、眉、ほほ、口の開きなどの細かく丁寧な表現が本当に上手い。本当に俳優が演じているものであるかのようだが、こうなると、声を担当している俳優ジョン・C・ライリーの演技をそのまま参考にしているのかもしれない。
乱暴物で短絡的だが、同時に悩みと弱さも抱え込んでいるその表情は見ていてまったく飽きない。
ヴェネロピーも同様で、ラルフの前では生意気で自信に溢れた表情を見せるが、実際にはゲーム・シュガー・ラッシュのなかでの自分の存在意義を確かなものに出来ていない不安に満ちた不安定なキャラクターとして、場面場面での表情がこの2面性を上手く描き出している。
場面による表情の差でキャラクターの2面性を描き出すのは、ラルフ、ヴェネロピーだけでなく、準主役のフェリックスやカルホーン軍曹でも行われてていて、言葉(台詞)では描けない感情表現を実現できている。
「トイ・ストーリー」(1996年)から17年で、始めはどっちが人間で人形だかわからなかった3DCGのキャラクター表現・演出は、いまや2Dのアニメーション・キャラクターに匹敵するどころか、すでにそれを超えようとしていることが「Wreck-It Ralph」を観ると実感できる。
もちろん3DCGキャラクターの表情演出はすでに2Dと同等であるといっていいわけだけれど、これまではまだ、2Dの表現を3Dに置き換えている雰囲気があったのだが、「Wreck-It Ralph」では、そこから、俳優の演技へむかって一歩踏み出した、かといって、リアルすぎない、あくまでカートゥーンのキャラクター表現としてどこまで演技できるのかへ向かって進んでいる風なのがとてもいい。
というわけで、ラルフやヴェネロピーの顔と演技を思い出すたびに「シュガー・ラッシュ Wreck-It Ralph」をまた観たくなってしまうわけです。