小野寺君が来てくれた!
正直それだけで私は天にも昇る気持ちだった
でも小野寺君は荒事は苦手そうだったし、不安もあった
でも、彼の行動は私の期待を遥かに上回る大活躍!
塚田を私から引き離し、そのままあっと言う間に転がしてしまう
それはもう驚きというか驚愕というか・・信じられない・・
塚田を転がすと直ぐに私のほうに駆け寄って来てくれたけど
私は感極まって彼に抱きついてしまった・・
嬉しい、嬉しい、うれしい!
しかしそんな思いを塚田の怒声がかき消そうとする!
「キサマ、絶対に許さんぞ!」
でも小野寺君は私に視線を落とすと軽くウインクして
「大丈夫、深山さんはさがってて」と余裕の表情を浮かべる
言葉に従い後ろに下がりつつも、私は不安でたまらなかった
先生の時といいまた彼を巻き込んで迷惑を掛けてしまった・・
もし小野寺君が怪我をしたら・・どうすればいいの?
そんなことを考えている間も塚田と小野寺君のやり取りは続いていた
「緋沙希をこっちに渡せ、これは俺たちの問題、お前は関係の無い」
「彼女が嫌がって、僕に助けを求めた以上、引き下がれないね」
「キサマ俺を知らんのか?」
「空手部の主将だろ、6数年ぶりに嘗ての名門空手部を復活させて、空手部OBの教頭先生に覚えが良いだけで、レイプとはやりたい放題だな」
「偶然俺を転がせただけで、随分と余裕だな・・」
「余裕も出るさ、何せお前は有段者、その手は凶器」
「お前は、凶器が怖くないと?」
「使えない凶器は怖くないさ、有段者はその拳を使えない、誰でも知ってることさ」
小野寺君が自信の根拠を示す。
そうだ空手有段者はその実力ゆえに、その拳は凶器として扱われる
暴力行為を行えば空手競技者として致命的な罪として数えられ
公式大会に出ることも出来なくなってしまう。
「詰めが甘いな、こんな人気の無い場所だ傷を残さないようにすればどうにでもやり様はある、教師も当てにするな、俺には教頭のお気に入りの空手部員としての信用と実績がある、お前の言葉などもみ消せるんだ!」
塚田の言う言葉にある程度の信憑性がある事は私も知っている
教頭先生を丸め込んで私が空手部位外に入れないように
部活顧問に働きかけていて、見学さえさせてもらえない部もいくつかあった
でも、小野寺君の表情から笑みは消えない
「そうらしいね、でもすべての教師が教頭先生の言いなりじゃないし、深山さんのお父さんは教頭先生とは同門の兄弟弟子なんだろ、深山さんにこんな事をしていると知れば、どうだろうね?」
「言ったろう、お前と俺、どちらの言葉を信じるかは実績と信用だ、どうとでもなる」
「深山さんはどういうかな?」
「緋沙希は俺の味方だ、付き合っているといっただろう、緋沙希は照れてるだけでお前の味方になどならない」
「ふざけないで、私はあんたと付き合ったりしてない!」
思わず叫んだ私の言葉をだか塚田は鼻で笑って言う
「緋沙希はツンデレという奴でな、素直じゃないんだ」
しかし小野寺君も余裕の表情を崩さない
「信用か・・自分の信用によほど自信があるようだけど、この会話を先生が聞いたら?それでも信用を利用できると思うかい?」
「何が言いたい・・負け惜しみか?」
「ひとつ忠告してあげるよ、本音は場所を選ぶべきだ・・後ろを見てみろよ」
後ろ?塚田の後ろにあるのは文芸部の部室・・
「あっ!」
私はすっかり忘れていた、そうだ・・そうだった!
この場で小野寺君がこれほど余裕でいられる理由が確かにある!!
そしてその理由、その人がゆっくりと部室から歩いて来て塚田の肩をたたき
ゆっくりと塚田に事の顛末を問いかける。
「塚田、暴力を振るっても、やりようがあるといってたがどういう意味だ?」
「数学の平井・・・先生」
ここに来て塚田の顔から余裕が消え去った
「事は最初から聞いていた、言い逃れは出来んぞ、レイプ未遂にそれを守ろうとした小野寺への脅迫まがいの恫喝・・言い訳は職員室で聞いてやるから一緒に来い」
「悪く思わないでくれよ、平井先生は最初から居たんだ」
小野寺君の言葉にその顔を睨みつけながら塚田が言う
「小野寺と言ったな・・その顔と名前、覚えておくぞ!」
捨て台詞を残して塚田は平井先生に連れられて階段を下りていった。