その時僕は、部室で深山さんを部活に勧誘しろという平井先生に抗議していた
「深山も部活を決めないでいると塚田の勧誘だって止まらんぞ」
「言いたい事は解りますけど・・・・ん?」
不意に廊下で声がした男の声だ・・しかも聞き覚えがある
「小野寺?」
「先生、静かに!」
いやな予感がして耳を澄ます・・
「こんな・・・緋沙希だって・・・誘ってたんだろ?」
マズイ!この声は塚田・・話してるのは深山さんだ!
どうやら部室に来る途中で見つかったらしい・・
僕は先生に背を向けドアからこっそり廊下を伺う・・
居た、塚田だ・・でも姿勢が不自然な?
不自然な姿勢の理由に気がついてぎょっとする
塚田は巨体を利用して深山さんを抱きかかえるように拘束していたのだ!
「緋沙希はやわらかい・・・俺の彼女・・キス・・・幸せ者だぜ!」
断片的に聞こえる言葉はもはやなんらの猶予も無い状況を物語っている
深山さんが塚田に体の自由を奪われキスされそうになってる・・
そう理解した瞬間、僕は部室の扉を開け塚田に向かって駆け出していた!
塚田の背中に飛び掛る瞬間、深山さんの声がする
「いや、嫌・・小野寺君、助けてえぇぇぇぇぇぇ!」
頭が真っ白になりそうだったが何とか押さえ込む・・冷静さを失ったら駄目だ!
塚田は空手部の主将中学時代も空手の大会で入賞と優勝をしている
体格も自分よりも一回り大きい、体重さも10キロ位は余裕であるだろう・・
普通に遣り合ったら勝ち目は無い・・なんとか引き離す方法を・・・
一瞬で脳が回転して閃いたそれを実践する!
塚田の後ろから首に飛び掛る、キス寸前の顔を深山さんから引き離す!
一瞬深山さんと目が合うとその目は涙であふれている・・・
(きっと怖かったに違いない・・塚田・・この糞ゴリラが!!
「何だキサマは、その手を放せ!」
「うるさい、お前こそ深山さんを放せ!」
怒る塚田をよそにその首の根元を真後ろへ引っ張る!
しかし流石は空手部、思ったよりぐらつかない・・・
さらに駄目押しで古典的ないたずらのヒザカックンでバランスを崩し
深山さんを拘束していた両手を離してバランスを取り直そうとするがもう遅い
塚田の巨体がバランスを崩すと後ろに倒れるのを尻目に
僕は自由になった深山さんに駆け寄ろうと塚田の体を飛び越える!
深山さんに駆け寄ると凄い勢いで抱きつかれた・・・(え?えぇぇぇええ?)
「小野寺君!」
「なっ・・ちょっ・・深山さん?!」
腕の中で彼女が僕を見上げるその目には安堵の色が広がっているが
まだ安堵できる状況ではない・・塚田はすぐに体を起こしこちらを睨む!
「緋沙希、今すぐそいつから離れろ!」
腕の中で深山さんが震えているのが解る・・
視線を落とすと縋る様な目で僕を見て助けを求めている
僕も深山さんの肩を引き寄せ抱きしめウインクすると
彼女もうなずき返してくる・・
しかし、それを見た塚田は怒り心頭に達したようで
僕に向かって怒鳴りつける!
「キサマ、俺の緋沙希に馴れ馴れしい事を・・絶対に許さんぞ!」
正直、喧嘩をして勝てる要素は何も無いし
走って逃げても体力的に追いつかれるだろう・・・
どうすればいい?どうすれば深山さんを守れるんだ?
考えろ、考えろ、考えろ!
塚田を睨み返しながら僕は必死に撃退策を考えていた・・