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MIMICオリジナル小説

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DL

プロフィール

自分は小説メインです。
お絵描きは「イメージを掴む為」ラフ画で止まってること多々。
文・画、共に停滞←

新着日記や新着イラストから、やたら足跡&コメントを残します。
しかも深夜に。
それを辿ってでしょうか?今こちらをご覧の皆様、ようこそおいでくださいました。

中近世欧米の文化レベルを基にしたRPG風ファンタジーの日常、
を謳ってます。
あんまり公開してないので、内々にしか知られてない状態。
初めて触れる人にも解り易くしようと、改変中。
文章及びキャラ設定は↓こちら(外部SNS)
http://www.dnovels.net/users/detail/7766
ちぃ内キャラ説明は
http://chixi.jp/?m=pc&a=page_fh_diary&target_c_diary_id=8...
ここに置きました。
雑談とかでもして頂けるととてつもなく嬉しいです(チャット状態とかでも歓迎)。


私本体は、RPG好き。FF派です。4~9・T。DQはやってない。
クロトリはやったんだけどね。
テイルズは、PDESV辺り解る。

音楽は、バッハ、ヘンデル、ハイドン、ベートーベン、ラフマニノフ辺りが好き。
現代邦楽ならV系、マリス、JDA、ABC。中森明菜(唐突?)。
アリプロや妖精帝國、東方とか。
各キャラのイメージ戦闘曲として紹介させて頂いてるのはGodspeedさんの楽曲です。

得意分野は語学。
国語では98取ったのに化学が13という、極端な文系脳。
魔法使いになる為に化学勉強中。中1の第一分野で躓いた(爆)

好きな文学は…
源氏物語ですね、やっぱり。
あと、ライトノベルは、スレイヤーズ。オリキャラ作りのきっかけに、そして私の人生踏み外すきっかけになった作品。
BL、GL、擬人化、割とOKです。割と、っていうのは…何か、一部NGなものがあるようで(たま~に引っかかる)。いや、多分、何でも食べます。
ただ自分では、その路線をあまり書きません。因って誰か描k――

日記は、小説関連を除けば、多分勉学面が多いと思います。
中間・期末テスト時期になると叫び始めます。

休日は図書館に居るか家で伸びてるかのどちらかです。
リアルに友達が少ない。



プロフィールはちょくちょく改変(追記?)します~

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12月12日
06:04

▼ヴィルト▼

使えないなら盾にするまで。判断が間違っていたとは思わない。
それでも、損傷が大きすぎた。痛みの出所がもはや解らず、体を起こすこともままならない。
鼓動と共に流れ出る血と体力。
乱暴に髪を掴まれても、ただ気管からゼイゼイ鳴るだけで、喘ぐ声一つ出せなかった。
「…殺されずに、良かったなぁ?」
そんな揶揄も、遠くに聞こえる。貧血故か痛みの為か、視界が霞む。
袖に仕込んだ魔石を取り出す、いくつあるかも解らない。ウェルツに体を預けたまま、唇だけで、紡ぐ。
「……螺旋の、弩……ッ」

ゴォ!!!

ヴィルトから放たれる炎を纏う突風!
火と風の魔石を融合発動。
跳び退り、ダメージを極力減らすウェルツ。
支えを失ったヴィルトは、力無くその場に座り込んだ。
勝負はついた。柄を握った手から力が抜ける。
項垂れたことで、額から頬を伝って血の味が口に広がる。これが、欲しいのか。
焼けるように熱を持つ傷口。頭が割れそうに痛い。

ふと、さっきの言葉を反芻する。
――殺されずに、
誰が?
――良かった。
何が?
力及ばなかったにも拘らず、またオレは、まだオレは生きている。
何も守れず。
「…………」
ズキン、と、何処かが痛んだ。

何を思った自覚は無かった。
けれど、
(……まだ、だ)
せめて、引き分ける。
でなければ、また、まだ、守れないままだ。

▼ウェルツ▼

風の勢いが収まると、ウェルツは顔を伏せたまま首を振る。
「…チッ。やってくれる…」
髪を掻き揚げて視線を上げた時
「――!」
ウェルツは目を見張った。

――まさか、あの傷で…

血溜まりに、ヴィルトは立っていた。
「……。」
ウェルツはただ黙って彼を見据える。

獲物とは己の身を守る為に抵抗を見せる。
己の身を守り切れないと知れば、戦意を喪失させ別の策で身の安全を確保しようとする。

では、限界を超えて尚立ち上がる、この行動が意味する事とは…
――極限の状況で、彼を突き動かしているものとは一体……

思考の果てに、溜息を吐いた。
「…残念だったな、ヴィルト」
この声は、恐らく届いていないだろう。
「…随分と楽しませて貰ったが、結局貴様は俺の期待外れだったようだ」
まぁいい。
「…獲物なら獲物らしく、もっと俺の為に足掻いて貰わんと存分に楽しめんだろうが」
俺の欲求を満たすことを忘れた今のコイツは“獲物”失格だ――そして…


ウェルツはレディアンスを振り上げた。
『 o -開 放 弦-』

…ザワッ…

赤い魔力が立ち昇る。ウェルツの気の高まりに呼応するように、ハープの形状が禍々しい姿へ変化した。
――“獲物”相手には見せる事はない、魔器の真の姿。
ブォンッ!
魔器を横に薙げば、形状がハープから巨大な槍と化す。
ウェルツはそれを右手に携え、対峙する“戦士”に切っ先を向ける。

「…あのまま大人しくしていれば可愛がってやったものを…今の貴様に一体何が出来る…己の無力さを――」

ダンッ、とウェルツは強く地面を踏み締め逆転重力を利用し爆発的なスピードで上空へ跳び上がった。
魔器を振るって大きく上体を捻り…

「――身を以て思い知るがいいっ!!!」

吼えると同時に魔力を叩き込んだ巨大な槍を投擲――最大出力の攻撃を、繰り出した!

『 ◇・SFZ・GRAVE -ハーモニクス・スフォルツァンド・グラーヴェ-』

巨大な槍は空を切り裂き、轟音を響かせながら落下する!


▼ヴィルト▼

「嘘…だろ……」
段違いの余力。対するヴィルトは、刀を携える手の震えをどうにか抑えて、自分の体を支えるのがやっと。
見上げる力なんて無い。しかし、わざわざ直視しなくとも、解る。弾かれた弦から音は波となり、空間を震わせ染めて行く、周囲にウェルツの魔力が浸透する。
諦めた方が、良いのかもしれない。勝てるわけ――
脳裏に過った弱音にかぶりを振り、対処の仕方に頭を切り替える。
断続的な痛みが思考の邪魔をする。
魔力の量が桁違いだ、正面から受けるのは、愚策。
動かなくなった右手から護符を外し、左に付け替える。
採る手段は「回避」。残る魔石は後6つ。4つの結界で衝撃は可能な限り削る。風が1つ。否、護符に吸収される可能性がある、使うだけ無駄だろう。結界破壊も、今は要らない。
予測される効果範囲は……
恐らく今までで一番、考える時間が取れた。自分に余裕が有ったなら、もっと良い策も浮かんだろうが。
この禍々しい魔力の質には、覚えがある。
ここ暫くの穏やかな日々が凪いだ、記憶が、憎悪が、一気に蘇る。
(オレから…奪った、あいつらと同じ――っ!)
エレノアを、大切な人を、魔族が奪った。あの日に全て壊された。傍で、同じ夢を見て生きて行くつもりだった。
あの時失われた道は、今だって見付かっちゃいない。
あの頃の夢が、悪夢に堕ちたまま。
怒りで我を忘れそうになるが、加速した脈拍が痛みに変わって頭を打ち、情動を繋ぎ止めた。
空を仰ぐ。澄んだ青ではなく、澱んだ赤い闇。螺旋を描いて収束し、それが真っ直ぐこちらへ向けられる。
(ハーモニクス、それなら解る)
増幅呪文、やはり、半端な効果では済まないと推測。
手は一つでも多い方が良い、覚束ない足で地面を蹴ると、ハルバードの方向へ走る!


▼ウェルツ▼

ヴィルトが動いた。
――無駄な事を…
眉間に皺を寄せ睨み付ける。
戦士へ贈る敬意と、愚かな獲物への皮肉…二つの相反する感情が瞬く間に錯綜し、苛立ちへと変わっていく。
それは一度手中に収めた獲物を、得体の知れない何かに横取りされる感覚に近い。

苛立ちはやがて強烈な独占欲を生む。

――奪い返してやる。

そう、何者も付け入る隙がない程、思考、感覚、感情、その全てを絶望で塗り潰し、精神の支配権を手にする事で、絶好の獲物へと引き摺り戻す。

この一撃は当たらなくとも良い。
圧倒的な力量の差を脳裏に刻ませ、絶望の種を植え付ける。これこそが真意。

――魔器が地に迫る――

――ゴオオォォォ!!!

地響きと共に爆風が巻き上がり、落下地点の周囲から錐状の突起が空を刺す。

残響で作り出された重力操作の効果が薄れ、ウェルツは次第に高度を下げ…やがて地に下りた。
砂煙の中、ウェルツは軽く髪を掻き揚げる。
「…さぁ…今なら俺に背を向けて逃げれば、見逃してやるかもしれんぞ?ヴィルト」


▼ヴィルト▼

(間に合った――)
納刀し、ハルバードの柄を握る。
体力は尽きかけていても、魔力はまだあった。
傷を内側から引っ掻くような地響きを堪え、
「オレの魔力を喰らえ、アイオーン!」
片腕で持ち上げ、前方へ振り下ろす!
元々衝撃波が付随されている構造、そこへ、それなりの魔力を供給してやれば、突き上がる錐を丸ごと吹き飛ばす程度の威力は出せる筈。直感だった。
ズガガガッ!! ドガァンッ!
見込みは的中、衝撃波は丁度ヴィルトを庇うように、地の波を破砕。手は刃が地面を砕く直前に柄から放した。
「――っ、『紺色の』……!」
四重に展開した楕円が周囲を覆う。その名の通り、深い青色に淡く輝いて。
押し寄せる爆風、炸裂の余波による熱から身を守る。不足分は護符を眼前に掲げ、魔力を吸収させつつ、結界に転換。
しかしそれでも、砕けた断片のいくつかは魔力に乗って結界を貫き、ヴィルトの頬に、脇腹に、新たな裂傷を作った。
直撃は避けたにも関わらずこの威力。
瞬時に刀を抜き、声を頼りに自分を狙う牙を探す。
まだ、終われない。
da capo(冒頭より再演)とまではいかなくとも、dal segno(中途より再演)くらいには。ヴィルトの狙いは、音楽用語で言うところのそれだろう。
放射状の軌跡を辿ったその中心が、レディアンスの、ウェルツの立ち位置!
小細工は要らない、真っ向から突っ込む!


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目次
http://chixi.jp/?m=pc&a=page_fh_diary&target_c_diary_id=9...
http://blog.chixi.jp/9692/diary/99616/

09月28日
20:41

▼ウェルツ▼

「ククッ…」
こちらを真っ直ぐ睨むヴィルトの表情に思わず笑みが漏れる。
ヴィルトは苦痛に耐えながら体勢を整え、彼が愛用している本来の武器…刀を抜いた。
「…ふっ、ついに自前の得物で来るか」
無意識に自らの血を人差し指で絡め取って舐めると
「いいだろう」
荒々しく全弦を左親指でグリッサンド、予め残響を魔器に響かせる。
間髪入れずにヴィルトが間合いに飛び込んで来た!彼は軸足を踏むと首筋を狙った白銀の一閃を繰り出す!

ガキィン!

対するウェルツはレディアンスの支柱で一撃を噛ませた!
「――成程、見事な剣筋だ…少々身体が悲鳴を上げているようだがな」
ウェルツが笑った瞬間、突如彼の外套が大きくたなびく。
――シャァァァ!!
数十匹の小さな使い魔が飛び出し、ヴィルトの傷口目掛けて牙を立てる!


▼ヴィルト▼

滑らせるようなその指使いを何と言うのだったろう。
広音域を一気に奏でたにも拘らず、一音の不協和音も入らない、整然と調律されたその調べにすら隙は無かった。
致命傷を狙った一撃は早々に防がれた。悠々たる褒め言葉も、今は耳に入らない。
手首を返し、切り替えた狙いは、弦。如何なる演奏家も、合わせる弦が無ければ音は紡げない。
瞬間、翻ったウェルツの外套から現れた使い魔が、腕に、脚に、喰らい付く!
「チィ……っ!」
わざとか偶然か、治りかけた傷の上。どっちでもいい、さっきより小型ではあるが、固まった分払い易い。腕を前で交差させ、脚は剣で肩は右手で、片や斬り片や打ち、一気に払い落とした。
この間合いで使い魔に専心するわけにはいかない。払った刀を半回転させ持ち替え、逆手のまま体を捻ってウェルツを串刺しに掛かる!


▼ウェルツ▼

刀の目標が自分から使い魔に逸れた一瞬を突きウェルツも次なる旋律を右手で奏でるが、そこに刀の切先が突き出される!
「フッ!」
接近戦を得意とするヴィルトの方が技を繰り出すスピードが早いのは当然。使い魔に襲わせた程度ではこちらが後攻になる事は察しが付いていた。
右手は音を紡ぎながら、演奏に使用していない左手でレディアンスのネックを掴み、マイクスタンドを回すように回避する。

キィンッ!

狙いが逸れた刀は右肩を掠めたが、気に留めず直後に完成した魔曲を解き放った!
『crescendo・mesto-クレッシェンド・メスト-!!』
ブロードソードサイズの刃がヴィルトのやや斜め上を囲むように四本出現、挟み撃ちの型で振り下ろされた!
一方ウェルツはすかさずレディアンスを右腕で振り上げる――
先程の使い魔に続き、この刃も囮で放った術だった。真の狙いは…
「ハァッ!!」
ウェルツはヴィルトが四本の刃を躱した先へレディアンスを振り下ろした!


▼ヴィルト▼

今までとは一線を画すサイズの「メスト」、これを「敢えて受ける」は通用しない。
刃はウェルツの右腕を掠めるに留まったが、その勢いはまだ生きている。ウェルツへは一瞬完全に背を向ける形になるが、一旦屈み、左足を軸に水面蹴り。
咄嗟に浮遊で逃れるウェルツ、その演奏は止まらない。
「ならば――」
術士にも関わらず動きが速いのが厄介だった。数匹残った「プレスト」も鬱陶しい。
屈んだお蔭でヒットは遅れる、攻撃は後に回して刃の迎撃を計る。
軸足で踏み切って1本からは射程外へ、2本は薙ぎ払い、残る1本は刀で受け流すように、両腕で支える。
ギャリっと、刃と刃の鬩ぐ嫌な音。
背を向けた一瞬が命取りか、振り下ろされるグランドハープ!

ガツッ

ミシリ… と、体内を通して伝わる骨の軋む音。激痛が次いで身体を駆け抜ける。
「ぐ、う……っ!!」
こちらも、お前の腕を貰う――!
伸び上がるように突き出した切っ先の狙いは、右腕!


▼ウェルツ▼

右腕の破壊には至らなかったものの、これで身動きを取る度に彼は痛みに苦しんでくれる。
「――いいぞ…」
突き出された切っ先に対し浮遊した状態から更にバック転で斜め上後方へ翻る!刀は惜しくも狙いに届かず、代わりに髪を数本散らした。
回避の先に到達した宙で静止する。
「…身を裂く痛みの中でもその判断力は衰えんか。流石は俺が期待した通りの“獲物”だ――『staccato・grave-スタッカート・グラーヴェ-…』」

ミシッ。

“瞬間的な重圧”をヴィルトの頭上から落とし、片手片膝を地に付かせ一時的に捕縛する。

――ずっと気掛かりだったことがあった。

ヴィルトに背を向けると、ふわりと宙を滑空しながら遠ざかる。
着地した地点は、ハルバードの形状のまま地に深く突き刺さっているアイオーンの傍。ウェルツは地に視線を落として、見渡す。
「……ッ」
息苦しさと同時に血の味がした。自己治癒能力が高い種族ではあるが、銃器を嫌っていたが為に弾丸を直撃では受けたことがなかった。
…この分だと、まだ自己治癒には時間を要するか…。
――砂に塗れた床の上、そこに自分が身を挺して守ったものを見付けると、ウェルツは屈みこみ、拾い上げる。

「…やれやれ…死んでからも…俺に手間ばかりかけさせる…」

どこか懐かしむような呟きを漏らしながら、ウェルツは立ち上がった。
その手には、砂で汚れた赤い髪留めのスカーフ。

「――さぁて」
髪留めを懐に回収すると、一拍を置いて再び上昇しレディアンスを構え直した。
「特別に貴様のリクエストに答えてやろう。噛み砕かれたいか?串刺しか?それとも圧し潰されたいのか?」


▼ヴィルト▼

ドサッ と、
突如襲った重圧に剣を持たない右を出してしまい、堪えきれずバランスを崩して倒れ込んだ。
「……はぁっ、はぁっ、……は、……っく……」
少しでも痛みを抑えようと息を止めてしまう、リズムを失って余計に上がる呼吸。未だ体にくっついていたプレストを数匹掴むと、苛立ちと共に叩き潰した。
すぐ次の一手が来るだろう、ゆっくりしている暇は無いのに、体が思うように動かない。
そこへ―― 「死んでからも、手間ばかりかけさせる」?
ただの独り言だろう、額を地に着けたままで耳に届いたウェルツのその言葉に、訝りどうにか顔を上げると、先程散らした髪留めを拾う姿。
(どういう、ことだ?)
誰かの、形見? 失って感傷に浸るような者が、ウェルツにも居た?
一瞬早んだ鼓動は、過去の記憶か傷の痛みか。
雑念を振り払い、背に隠し持っていたダガーを添え木代わりに腕を縛って、立ち上がる。メストの欠片でも当たっていたか、頬を伝ってぽたりと血が落ちる。
(噛み砕く?串刺し?圧し潰す?――どれもごめんだ)
刀を握ったまま、自らの血で真っ赤に染まった左手を差し出し、誘う。
「降りてこいよ。オレと、ヤろうぜ」
あくまで、オレの本分は接近戦だ。


▼ウェルツ▼

ヴィルトの挑発に、ウェルツはニヤリと笑う。
――そうか、降参の意はない、か。
与えた選択肢は、全てウェルツが得意とする遠距離攻撃。接近戦を得意とするヴィルトにとって分が悪い。
己の限界を知っていれば、プレッシャーを感じたところで降参するのも一つの手ではある。しかし、降参という行為は“自らが”敗北を認める、ということ。
ウェルツは、この対戦に勝敗を求めていない。ただ、楽しませてくれればそれでいい。
仮にヴィルトがここで自らの敗北を認めていたとしても、ウェルツは止まらない。己の欲求を満たす為だけに、一方的に戦闘を続行してやるつもりだった。

ところが、ヴィルトは深手を負いながらも尚戦う意思を示した…そして僅かな勝算の可能性を信じ、己が最も得意とする戦法に持ち込む為に、逆にウェルツを挑発して来た。

――ここで自らを死に追い込むような行動を取るとは…どこまでも楽しませてくれる…!

「…いいだろう」
不気味なほど優しい口調で答える。
そして両手の指を弦の上に滑らせた。左右の指が別々に奏でる二重の旋律…術の同時発動『a2-ア・デュエ-』
「…そんなにイかせて欲しいのなら、貴様の望み通り、乗ってやる――だが…」
『変調prestoープレストー』『crescendo・mesto-クレッシェンド・メスト-』
言葉を切って指を鳴らした瞬間、宙を漂っていた残り4匹のピンポン玉サイズの使い魔がバレーボールサイズまで巨大化しヴィルトの四肢を狙い牙を剥く!
そしてウェルツは召喚したブロードソードサイズの両刃のメストを右手で掴み、二、三回試し振りすると接近戦を仕掛けるべく急降下する!
「俺相手に、あと何秒保つだろうな!?」


▼ヴィルト▼

ウェルツには余裕がある。ヴィルトを叩き伏せられるという、自信が。だからこそ、痛め付けることに執心し、命を欲する様子が見て取れない。
ならば、そこから生まれる隙を突く事が出来れば、勝機も見出せようもの。
とはいえ絶対的な力量差の埋め様は、未だ見付からない。
向けられる声調は、sanft molto(極めて優しく)。
術名と効果も予測は出来た。しかし演奏から発動までが如何せん早い。その分単発に留まるようだが……
近場に居たプレストが巨大化、先程と同様、ヴィルトを襲う!
「この程度――っ」
左半身を一旦引き、右足を軸にして、眼前の一体を蹴り上げる!続く左側の一体を、こちらから口に突っ込んで串刺し、振り払って向こうの一体へぶつける。
蹴った一体が戻ると同時に斬り付け、次いで右の一体を叩っ斬ろうとするが、噛み付く体勢をとっていたそれが、途端スピードを上げ、右腕に突進してきた!
大した威力ではないが、場所が悪い。
使い魔にそんな判断力が備わっているのか、追尾型が故か、ウェルツの意思が働いているのか、一瞬気にはなったがそんなことはどうでも良い。腕を庇うように下がり、刀の柄で殴打する!
退いたのを好機と、後ろから左腕に噛み付く一体。今度は膝に打ち付け、挟み撃ちにした。
(後、一匹……っ)
始末し切るより早く、ウェルツが肉薄する!
剣で応じればハープに防がれる、ならば。
右足でハープの縁を蹴り、牽制、その程度で退いてくれるウェルツではない。構わず剣で斬り掛かってくる! 刀で受け、多少のダメージはあるだろう、腹へ蹴りを放つ。
ヴァサッ と、音の割にはzartheit e presto(優雅に、そして急速に)、ヴィルトの頭上を飛び越え、背後へ回るウェルツ。
振り向きざま刀を斜め上から振り下ろす!
ガキッ
案の定防がれたが、弦の隙間から喰い込ませようと刃を滑らせ――
(右――ッ!)
回避、左の防御は間に合わない! 敢えて、右のダガーで受ける……!
「うあっ、ぐっ……っくう……――っ!」
固定に使った紐が切れ、ダガーはガシャリと地に落ちる。
顔を顰めながらも、残る一体を斬り払った。


▼ウェルツ▼

グランドハープを振り回せる腕力の斬撃。骨に損傷がある右腕で受けるには、致命傷を免れたとはいえ代償が大きい。
激痛に喘ぐ彼の声、表情が、ウェルツを駆り立てる…
ヴィルトが痛みを誤魔化すように刀でプレストを裂く。ここでウェルツは右手に携えているメストを手放し、同時に指を鳴らした――『toremolo-トレモロ-!』
パリンッ!
硝子が散る音を立ててメストが剣サイズから5本のナイフへ分裂した。刀の薙ぎで全て払い切れないよう、ワザとタイミングを僅かにずらし至近距離から放たれる!
狙うは、首、心臓本体、心臓周囲の動脈、左右の肺…一つでも直撃を許せば、瀕死へ繋がる致命傷は免れない。
――さぁ、コレをどう対処する…?
タイミングをずらしているとはいえ、一本一本のナイフの対処を練る時間などない。

ウェルツの視線の先で、“トレモロ”の効果を察したヴィルトは咄嗟に身を引き少しでも時間を稼ぎつつ、まずは無駄のない動作で首を狙ったナイフを回避。痛みを堪えた表情を浮かばせながらも同時進行で、負傷した右腕を動かした!
「ぐっ…ッ」
心臓を狙った二本のナイフを右腕を犠牲にすることで防ぐが、やはりナイフはヴィルトが予測した通り突き刺さった瞬間嫌な動きを見せた。激しく振動し傷口を抉りながら深く突き刺さっていく!しかし痛みに気を取られている場合ではない。激痛を噛み殺し右腕に喰い込み続けるナイフは後回し、肺を狙う二本のナイフの軌道を瞬時に計算すると左腕で刀を角度を調整して一気に薙ぐ!
キィン!
弾かれた肺を狙った二本のナイフは回転しながら宙に放り出される――しかし
「フッ!」
ウェルツは弾かれたナイフに魔力を注入する事で軌道を修正、刀を振り切ったヴィルトの腹部と脇腹へ突き刺さり、一際激しく振動を起こす!
「ぁあッぐ、あっああぁあああーーッッ!!……っ」
蓄積された分が押し出されるように、掠れた声で悲鳴を上げた。
喉が渇いて満足に叫ぶことすらできず、遂に許容量を超えたか、地に崩れ咳込むヴィルト。
呼応するように、腹部の傷から血が噴き出す。全身が激痛に強張る。

「……ふむ」
一拍置いて、彼に掛けた術を解除するウェルツ。傍へ歩み寄り彼の状態を窺った。
ヴィルトの息が、鼓動が、荒い。
全身に無数の切り傷、左肩周辺の衣服が黒く染まり、傷口も満足な治療がないまま既に乾き始めている。右腕は骨に損傷があり血を流す深い刺し傷が二ヶ所。両足の刺し傷は度重なる激しい動きに傷が塞がるどころか少し裂けている。腹部の刺し傷が、今一番出血量が多い。床に血溜まりを作り銀髪の髪を赤く、浸す。
立ち上がるどころか、とても動ける様子ではない。
「…流石に限界、といったところか…まぁ安心しろ。あとは…ラクにしていればいい。俺を楽しませてくれた褒美に、命は残しておいてやる」
声を掛けながら、レディアンスの尖った先端を地に突き刺すとその場に屈み込む。
右腕で息を荒げるヴィルトの首を支え上体を起こさせた。そして開いた首筋に爪を立てながら――

「…殺されずに、良かったなぁ?」

ぽつり、と優しい声で耳元に囁く。
――至福の時間が訪れた。
欲望のままに、左肩から鎖骨に流れた血をなぞって舌を這わせる。血を絡ませた舌を口内へ戻せば、渇いた身体に染み渡っていくような快感を覚えた。
一つ奪えば十欲しくなる。十を奪えば百が欲しくなる。続いて、首へ流れた血を、丁寧に、味わうように、舌で絡め取り始めた。理性の殻が、次第に剥がれていく――

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目次

http://blog.chixi.jp/9692/diary/99616/

07月13日
00:38

▼ヴィルトvsウェルツ▼

――まさか、降参を願い出るか?
突然の呼びかけに、ウェルツは指を弦に乗せたまま一旦動作を静止する。しかし
「楽器はもっと丁寧に扱う物じゃないのか?」
毅然とした態度でヴィルトは指摘した。
「何かと思えば…どう扱おうが俺の勝手だろ。レディは俺のモノだからな」
「違いない」
誇示するように答えるウェルツに、ヴィルトは警戒は解かぬまま薄く笑って見せる。何気無い素振りでアイオーンを――ライフルを弄びながら。
「それに、俺としてはレディを可愛がっているつもりなんだがなぁ?」
ウェルツはヴィルトの血が付着した右手の指に舌を這わせながら
「貴様も俺の物になれば、髪先からつま先まで可愛がってやるぞ?」
悪戯っぽく微笑んだ。
「……何故、そこまでオレに構う。お前になら、他にいくらでも得やすい獲物は居るだろう」
一瞬の静寂の後、ウェルツは腕を組む。
「…どうやら貴様は相当俺から逃れたいらしいな…だが諦めろ。貴様は無意識に俺を刺激しているんだ。その芳醇な血の香りといい、こうして俺に抵抗するところといい…」
言葉に余韻を持たせたところで、まるでヴィルトを招くかのように片手をゆったりと差し出す。
「例え他に良質な獲物が居ようが大した問題では無い。貰えるものは根こそぎ貰う。奪えるモノは全て奪うまでだ」
「なるほど、如何にも魔族らしい思考だ」
ヴィルトは呆れたように吐き捨て、今度は二本の双剣に姿を変えたアイオーンを、カシンッと打ち付けて、
「しかしオレも、黙って食われるのはごめんだ。それがお前を尚、煽ることになったとしてもな」
次は両端に刃のついた一本の剣「双刃」、そしてハルバードへと変形させる。
再びライフルの型を取った時、気付いた。これは…細くなった先に穴が開いている。手元にある引き金。この形状は……
「それでいい。心地よい心がけだ、ヴィルト。俺の気に召された事光栄に思うが良い」
(……誰がだ)
思っても、ウェルツさえ予測しているであろうそんな言葉を、態々口にする必要もない。
そんな中ウェルツは魔器レディアンスを片腕で縦に一回転させると、ヴィルトに狙いを定める。
「…あの男が貴様によこした武器は随分と面白い構造をしているようだな……その形状は好かんが」
魔器を構え直した――敵意の表明。
餌の捕捉を狙うその視線に、応えるようにヴィルトは不敵に笑って、
「そうだな……アルトには礼を言いたいね。お前には好かんかもしれんが――オレは、中々気に入っている」
アサルトライフル型、アイオーンの銃口を真っ直ぐにウェルツへ向ける。
「フン、嬉しそうに言ってくれる…そんな耳障りな音を立てる武器のどこがいい」
眉間に皴を寄せ目を細めるウェルツ。
「俺の演奏を雑音で妨げるなど以ての外だ。さっさと別の形態にせんと容赦せんぞ…!」
ウェルツは知っているようだが、ヴィルトの国にこんな武器は無い。恐らく大陸の何処を探しても無いだろう。が、使い方は何となく解る。
発動は、この、引き金(トリガー)。
「生憎オレは、音楽に興味が無い。そして、お前にもな」
それを、躊躇い無く引いた。



▼ウェルツ▼

――ズガンッ!

機械的な重量のある発砲音とほぼ同時に、髪留めのスカーフが解け長い髪が揺れる。
「…キッ…サマァ…」
不愉快だ。“コレ”だけは、不愉快でしかない。
「…いい度胸だ…ここで受けた不満は後に貴様で晴らさせて貰うぞ――『mestoーメストー』」
低い口調で呟くように言いながら弦を弾き、自らの周囲に刃を十本程出現させる。
「…さぁ…気が済むまで撃つがいい!!」
魔器の角度を変え体勢を低くすると、召喚した刃を追撃させるように周囲に纏いながらヴィルト目掛けて突進を仕掛けた!

ドガァ!!!

魔器を横薙ぎに大きく振るい、目標地点から一番近かった地面の突起ごと粉砕する!
突起は粉砕する際に宙へ薄く砂煙を散らした。


▼ヴィルト▼

「ぐ――っ!」
発射の勢いで石柱に背中から叩き付けられ、思わず声を漏らす。
振動が左肩に響く、やはり回復が甘かったようだが、気に掛けている暇はない。
先程の一発は反動が故に狙いも逸れたが、背に支えのある今なら――
「……」
今一度構えかけたところで、岩を薙ぎ払いながら突っ込んでくるウェルツを見てふと思い立ち、回避行動に出た。
形態をハルバードに戻し、
ドガァッ
手近な一本を破壊、その思ったより軽い手応えに、ヴィルトは続いて2本、3本と砕いて行く。
舞い上がる砂煙に、こちらも視界を遮られるが、同時に向こうからもこちらは見えない筈。


▼ウェルツ▼

――ハルバード。
岩を破壊する音の方がまだマシだ。
ヴィルトを視界に捉え、低空飛行で距離を詰めるウェルツの行く手にヴィルトが破壊した岩が崩れ落ちてくる。
「チッ、鬱陶しい」
ハープの先端を瓦礫の落下地点手前の地面に突き刺すと、高跳びの要領で前方へ向けた突進の勢いを真上へ移し、再び上空へ舞い上がる。
軽く衣服をはたきながら改めて地上を見下ろせば、既に一帯が濃い砂煙で覆われていた。ヴィルトを見失ったが、態々悪視界の中地上からライフルを使ってくる事はないだろう。
そしてヴィルトはウェルツに浮遊能力があり、遠距離戦を得意とする事を知っている。この状況でウェルツが今何処に居るかぐらい彼ならすぐ察しが付く筈だ。
「…さぁ、どう来る」
周囲に刃を浮遊させながらウェルツは何処か楽しそうに呟いた。


▼ヴィルト▼

「ラインカーム」
今度は同時に2個。肩や、他の傷を治癒させる。
そのままヴィルトは、恐らくウェルツが浮いているであろう場所の真下を通り過ぎ、ハルバードを両手で高く掲げる。
壊していて気が付いた。これは、魔力を吸って威力を増すタイプの武器。
アルトには魔力が無いと聞いた事が有る、ならば、中に動力源を入れてあるのだろう。
(そこに、オレの魔力を加えれば?)
試してみる価値はある。
手に込めた魔力が柄に吸い取られる感覚。振り下ろし、三度地面に叩き付ける。その瞬間、

ズアッ!

衝撃波で体が舞い上がる。
場所は、的中。ウェルツのやや後ろ、そう遠くない位置に現れた。
跳び上がった瞬間、形態変化はさせてある。ライフルだ。
風の流れを読んだか、瞬時に振り向くウェルツ。まともに受けてくれるとは思っていない――
ライフルを今度は左で構え、次に変化させるボタンに指を掛けつつ、その引き金を引いた。

▼ウェルツ▼

――俺を馬鹿にしているのか?
ライフルの形状に、ウェルツは苛立ちを滲ませた眼光で睨み付けながら指を鳴らした。
ウェルツの周囲に召喚されていた刃が一斉にヴィルトに向け放たれる!
そしてその瞬間ヴィルトがライフルの引金を引いた!

ズガンッ!!!

一度ヴィルトはこの銃器を使用している。彼の指の動きと、発射と着弾、この一連の拍数とリズムさえ掴んでいれば回避のタイミングは大体予測出来る。
ヴィルトの指の動きに合わせウェルツは身を翻し回避…――
――!?
回避すれば着弾する直線状の地点を目にした瞬間、ウェルツの動きと思考が凍りついた。
チィッ!
咄嗟に回避とは“逆方向”へ体を戻す!

ドォォン!!!

「ぐっ…!」
腹部に直撃した重い弾丸の衝撃に圧され、ウェルツは落下した。


▼ヴィルト▼

「何故――」
落ちていく様を見て、一瞬戸惑った。避けられるつもりで撃ったからだ。
凍りついたような刹那の表情……
迷いを振り切るように、形をハルバードに変えたアイオーンを、落下軌道に投げた!
「く、うっ……」
振り被ったことで、治り切っていない左肩の傷が引きつる。構うものか。
「風翠の刃!」
左では刀を抜きつつ、今度は右で風の魔石に後を追わせ、入れ違うように「メスト」。
キィッ カキィッ
迫りくる硝子片を、能う限り刀で払い落す。
打ち損なった数本の一部が腕を掠め、一部は両足に刺さった。
「……っ。ちまちまと……っ!」
ヴィルトには滞空手段が無い。地面に叩き付けられる前に、足元に風の呪文でクッションを作る。


▼ウェルツ▼

背に風の抵抗を感じる中、追撃のハルバードが眼前に迫る!
「ッ…小癪な…!」
痛みを表情に滲ませながらレディアンスを半円を描いて斜め下へ振り切り

ガキィン!

軌道を逸らさせつつ叩き落とした!
ハルバードの落下地点を確認したところですぐさま視線を戻し、投げられた魔石を識別する。
――あの“風の魔石”か。

『風翠の刃!』

呪文と同時に風が動く!密度を増した風の棍棒が周囲に四本、それらがウェルツに振り下ろされた!
しかし、何度か使われているこの魔石が内包する魔力量は既に把握済みだ。この魔石が生み出せる程度の攻撃ならば避けなくとも甚大な支障が出ることはない。

ゴォォ!

命中したのは二発。
まるで殴られたような衝撃が左脇腹に走ったが、威力は想定していた通りだった。術そのものの威力よりも、腹部の傷口に響いてくる痛みの方が邪魔だ。
続いて同じ威力の衝撃が右肩に走るが、ウェルツは気に留めずヴィルトへ視線を移す。

そして、自らに重力軽減を掛ける事で落下スピードを緩め、体勢を整えながら…ヴィルトが足元に風の呪文で、クッションを作り着地する寸前を見計らって――
『tremolo-トレモロ-!』
指を鳴らした。


▼ヴィルト▼

ウェルツの声と同時に、身に食い込んだ破片が振動する!
「う、ああああああっ!」
着地の衝撃は術で和らげたものの、突如走った苦痛に姿勢もままならず頽れる。
「こ、の……っ、やって、くれる……!」
蹲ったまま、素手で掴んで両足から引き抜き、乱暴に投げ捨てた。
右が深い。
顔を上げ、ウェルツを睨む。
向こうもそれなりにダメージは負ったようだが、後が無いのは、こちらの方だった。
上がりかけた息を整え、軽く深呼吸して、刀を斜めに構え直す。
(耐えてくれ……っ)
自らを鼓舞し、傷付いた足で地を蹴る。接近戦に持ち込めば、あるいは。


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06月09日
17:18

▼ヴィルト▼

打ち損じた数体は、ハルバードを回転させることで弾き落とし、念の為に叩っ斬っておく。
返った使い魔を始末するかと思いきや、掴んだ?
「……ちっ」
弓の姿勢を取った時点で、やることは一つ。そしてこれは……「受け取れ」、つまり、プレゼントつきらしい。
要らねぇよ!
そんな問答を返す間など無い、踵を返し、恐らく着弾と共に四散するであろうその「弾」から距離を取る――
――筈だった。
ガクン、と、足が何かに取られたように、動きが鈍る。
地属性か、上位の重力か。
「知るか!」
右の拳を床に叩き付け、その護符で以て術のキャンセルを試みた。
一瞬、足が軽くなり加速するが、やはり何か掛かる力が違うらしく、再び絡め取られる感覚。
余計なことは考えない、一瞬でも効いただけ良いだろう。
振り仰げば、薄笑みを浮かべる吸血鬼。袖口から小型のナイフを二本、取り出すと同時に投げ付けた。
しかしその行く末は確認しない。どうでも良いからだ。
即座にハルバードを柄の末端で握り直し、迫る使い魔に刃先で迎え撃つ。
ぱくっと、切り口が開いたように見えた瞬間、手のひらサイズのガラス片に姿を変えて襲い来る!
「く……っ」
獲物の重さに慣れず、振り回した力に負けてバランスを崩すも、
「――そうか」
力の向きを変え「後ろへ」、地に落ちたその勢いで体を引っ張らせた。重ければそれだけ遠心力も大きい、利用しない手は無い。
足元に突き刺さる十数本のガラス片。追いすがる数本は、多少の傷覚悟、右腕で払い落とした。
避けても、喰らっても、ウェルツは楽しんでいたのだろう。
不愉快だ。
棒術の要領でハルバードを頭上から回しながら振り下ろし、地面に叩き付けた。


▼ウェルツ▼

「…ほぅ。“結界破壊”か」
ヴィルトがハルバード形態のアイオーンを地面に叩き付けた瞬間、手応えを感じた。
地に張り巡らせていた重力が弱化されたのだ。
アイオーンを振り下ろす直後でさえ特異な魔力の流れを感じなかった事から、恐らくアンチ効果を持つ魔道具を直前に足元に落とし、それを叩き割ることで発動させたのだろう。
しかし、こちらも詠唱なしで発動させた即興曲である。効果が薄らいだとしても気に留める事はない。
それよりも、あらゆる状況に於けるヴィルトの対抗手段を見ることが出来るのが何よりの収穫だ。
ウェルツは機嫌良く笑う。
「成程。此処まで“無傷”で来れた貴様が相手ならば、生身の人間とはいえ俺も力加減する必要はどこにもなさそうだ」

ウェルツは力加減が得意ではない。
その為、獲物を弄ぶ内に文字通り圧し潰してしまうことも少なくなかった。
その獲物の中には人間も数多くいたが、彼らの多くは重力操作に対抗する手段が見出せず、中には精神力が低く発狂する者もいた。
ところが、目の前の青年は人間であるにも関わらず、彼等の多くとは違い異質な魔力にも冷静に対処する術を知っている。
更に、重圧を弱化させただけではなく、その最中こちらへナイフを投擲してきた。
ナイフは目標を外したものの、こちらへの攻撃性を剥き出しにしている。この行動が、ウェルツを刺激した。
「――さぁ、もっと楽しいことをしようか」
魔器の演奏が継続する限り、術の効果も継続される。
例え弱化したとしても魔力を与えれば再び術は息を吹き返す。
これまでウェルツは演奏を途切れさせる事無く弦を奏で続けていたが…次第に曲調を荒々しく変化させ
「次は、どうだ――『変調forza・graveーフォルツァ・グラーヴェー』」

――ミシッ…!

術を発動した瞬間、ヴィルトの右足が沈み床に亀裂が入った。
今まで広範囲へ展開していた重圧が一気に凝縮、高濃度となった重圧がヴィルトの“右足”だけに絡み付いたのだ。
明らかに先程までの“捕縛”を目的とした重圧の域ではない。
ウェルツが奏でる演奏が、じわじわと右足にかかる重圧を増幅させていく。やがては“粉砕”させる威力にまで到達するだろう。
「くく…この状況で、右足の損傷を何処で食い止められるだろうな――『a2-ア・デュエ-』」
発動させた術は、左右の指が別々の音色を奏で、二つの効果を同時に発動させる奏法である。
右手で引き続き『変調forza・graveーフォルツァ・グラーヴェー』(一点集中型重力操作)を維持しながら、ウェルツは左手で別の演奏を始める。
『quartetto・mestoーカルテット・メストー!』
召喚された無数の刃はあらゆる方向へ空を切って飛来し、竜巻のようにヴィルトの周りを旋回しながら不規則に切っ先をヴィルトへ突き立てる!


▼ヴィルト▼

読まれている。
言葉が聞こえたわけでもないが、ヴィルトはそう直感した。
悟られぬよう苛立ちに擬装して発動させたのだが……やはりウェルツも術士、魔力の流れで解るのだろう。
しかしそれは、発動中も「流れ」は繋がっているということ。かけっぱなしではないという事だ。つまり――
(魔力の流れを断ち切れば、今すぐにでも落とせる)
発生源は、あのハープ。ハルバードの柄を短めに握り直し、こちらから駆けて行こうとした瞬間、
――ミシッ…!
床に亀裂が走り、右足がそこに沈み込む。
違う。
自分に、力がかかっている。その重圧の大きさは、先程の比ではない。
「く……っ!」
たまらずその場に屈みこみ、その弾みで、
――カチッ
「……?」
瞬間、手元のハルバードが崩れたかと思うと、形態変化、大きな鎌へと変化した。
どうやら何か変な部分を押したらしい。カチっという音は、その合図だったのだろう。
しかし……
『a2-ア・デュエ-』
ウェルツの声と同時に、掛かる負荷が増大する。
考える暇さえ与えられない。何かを押せば変化する、今はそれで納得しておく。
魔石をもう3つ取り出し、一つを足元に、一つを咥え、一つは手に持ったまま、
「紺色のエリプセ」
言うと同時に噛み砕き、大鎌を勢い良く振り下ろして足元の魔石を叩き割る!
『quartetto・mestoーカルテット・メストー!』
「風よ爆ぜろ!」
加えられた衝撃が大きい程、効果が上がる。ウェルツの第二波が届くより前に、弾けた風が、ヴィルトの身体を吹き飛ばした!
ダメージは、「紺色のエリプセ」、防御呪文で緩和できる。
空中でくるりと姿勢を反転、自分に掛かった魔法ごと、ウェルツの上空から襲い掛かる!

▼ウェルツ▼

片膝を付いたヴィルトが握るアイオーンの形状が、ハルバードから大鎌へ変化する。
「――フッ」
恐らくハルバードより当たり判定が広い大鎌で、刃の嵐を一網打尽に薙ぎ払うつもりなのだろう。
ウェルツは飛来させるメスト(刃)に魔力を注ぎ、自動追尾から手動に切り替えた。自在に刃を操作する事で生じる死角を的確に突こうとしたのだ。
――ところが。

『紺色のエリプセ』
聞きなれない詠唱、そして異質な魔力の流れを感じたかと思えば…
『風よ爆ぜろ!』

 ド ン ッ !!!

「――!」
ヴィルトは自らに対人結界を張った上で足元から爆風を起こし、刃の嵐が到達する前にウェルツの上空を取ったのだ!
「チッ!」
読みが外れ思わず舌打ちをしながら体勢を整える。
過去に悪役部屋でバトルと喧嘩した際にも重圧を逆手に取った攻撃を仕掛けられた事があったが、勿論対抗手段は幾つか用意している。
しかし、多くの手段は『a2-ア・デュエ-』(術の同時発動)を使う。ウェルツは既に『a2-ア・デュエ-』を使用中の為選択肢が狭まっていた。
『rest-レスト-!!』
咄嗟に魔器に休符の言霊を響かせ演奏を中断。
休符(一時の静寂)も演奏を作り上げる上では重要なテクニックの一つ。これは演奏による“術を一つ維持”させながら短時間演奏の中断を可能にする。
その瞬間ヴィルトの足に掛けられた重圧は解かれたものの、恐ろしい勢いで頭上から大鎌が振り下ろされた!
「ハァァァァッ!!!」
威圧感たっぷりの重厚な低音で吼えながら、ウェルツは魔器を力任せに大きく振り上げ大鎌の重い衝撃に噛ませる!
ガキィィィィン!!!

しかし全ての衝撃を吸収し切れず、武器を交えたままヴィルトと共に落下した。
その最中、間髪入れずにウェルツは素早く右手のグローブを咥え抜きくとシャッと乾いた音を立てて爪を伸ばし――
ドスッ!
突き出した右腕でヴィルトの利き腕…左肩に5本の爪を突き刺した!

――ドォンッ!

地面に着地するとウェルツはヴィルトの左肩を刺したままヴィルトの耳に囁く。
「よくぞ短時間で俺の重圧を解かせたな。益々気に入ったぞ」
ウェルツの頬には大鎌の風圧で切り傷が出来ていた。薄ら血が滲んでいる。
「……オレは…っ、益々アンタを嫌いになった……っ!」
吐き捨てるようにヴィルトは言い放つと、ウェルツの鳩尾を蹴り飛ばす!エンゲージを離脱するや否や素早く臨戦態勢を取った。
ウェルツもまた体重を掛けたヒールを地に刺し反動を止めながら、魔器を構え直す。
「いいぞ、貴様の意思に反して振り回してやる。何処までも嫌うがいい」
ウェルツが指を鳴らした直後『rest-レスト-』(休符)が解除された!

先回りさせ、真下の地面に潜らせていた刃の嵐(カルテット・メスト)が一斉に飛び出しヴィルトに襲い掛かる!


▼ヴィルト▼

「く……次から次へと……っ」
多少の傷は覚悟、ヴィルトは防御態勢を取らずに駆け抜ける!
モノはさっきと同じと見た。耐えられない威力ではない。折角ここまで近付けたのだ、この好機を逃す手は無い。
「定まらぬうつろいに、ひとかたの安寧を ――ゆめもりの箱っ」
右はアイオーンで塞がっている。ヴィルトは叫ぶと同時に、貫かれた左腕で魔石をハープに向かって投げ付ける!
アヤの得意技、「立方体の夢」。詠唱など必要無い。解っての言葉だった。
文言から言えば防御呪文、ウェルツがそう予測し、対処が遅れてくれれば――その為の、誘導。
「保険だ――火炎球(ファイアー・ボール)!」
続いて魔石を5つ取り出し、内4つを追加攻撃。これくらいしておいても、相手が相手だ、惜しくは無い。

▼ウェルツ▼

足元へ降り注ぐ刃の中をヴィルトは駆けて来る!
「豪放なことだ」
呟きながら人差し指で一弦を弾く。
その音に反応したのは、未だ地面に身を潜めていた、一本の鋭利な刃。
それは、ゆっくりと地面を突き破り姿を現すと、切っ先を静かにヴィルトの背に向ける。

『定まらぬうつろいに、ひとかたの安寧を ――ゆめもりの箱っ』

猛進するヴィルトが唱えた呪文は、戦禍をもたらすには余りにも相応しくない響きだった。
微かに感じられた魔力からしてみても、治癒や防御といったサポート系の呪文に間違いはなさそうだが…ヴィルトはウェルツに魔石を投げた。
その行為が意味する事とは――

――ッ!

察しが付いたウェルツはすぐさま指を鳴らし、ヴィルトの背を狙っていた一本の刃を発射させた!
そしてすぐさま確認するように全ての弦に指を滑らせ――

バチッ!

予想は的中していた。
「…成程な」
一部の弦に触れられない。触れようとした瞬間、指が見えざる何かに弾かれたのだ。
この弦に仕掛けられたエネルギーこそ結界『立方体の夢』である。
ウェルツは魔曲を封じられた。
しかし能力自体はウェルツに宿っているため術を使う事は出来る。但し、魔器は術を使う際の舵のようなものである。
魔器を通さない術の発動は制御が効きづらい為暴発する可能性があった。特に、重力など緻密な魔力バランスが必要な術なら尚更の事。

『保険だ――火炎球(ファイアー・ボール)!』
ヴィルトから4つの煌々と輝く炎が放たれる。
「掛け捨てだな。どうなっても知らんぞ…!」
ウェルツはハープを右手に持ち替え、火炎球が到達するタイミングを見計らい
「――グラーヴェエエ!!!」
力の限り『立方体の夢』ごと魔器を床へ叩き付ける!

ドオォォン!!!

火炎球を3つ巻き込み爆発のようなド派手な音を立てるが、効果はそれだけではない。
重力で圧迫された大地が錐の様に鋭利な地形を成し、天井に向かって次々と剣山のように聳えながら周囲に拡がる!
『立方体の夢』を破壊した事で重力の制御を取り戻すと、ウェルツはすぐさま地面の隆起を避ける為上空に避難する。しかし、頭上から潰しきれなかった火炎球がウェルツ目掛けて落ちてくる!
「――フンッ!」
パァン!
火炎球を払い落とした左手に痛みが走る。
「…くっ…やれやれ」
顔を顰めながらウェルツは地上を見下ろした。


▼ヴィルト▼

「違ったか!」
ハープさえ押さえればと思ったが、そうでもないらしい。
隆起する地表、ウェルツが上空へ退避するのを視界に収めつつ、今一度手元のボタンを押す。
変形する大鎌。間を置かず背後で風を切る音。
振り向く時間さえ惜しみ、ヴィルトは咄嗟に左へ身体を傾ける。右腕を掠りはしたが、気にしなければ済むと、痛みは割り切ることにした。
それよりも、波打つ大地を如何に回避するか。
「――避けられないなら!」
隆起が有れば沈降箇所もある。足を止めずそこを目がけて突っ込んでいく。
剣山の一つ一つが大きい。その分その隙間も大きくなる。
体を捻って避けつつも、小さな錐が足を掠め、大型の石柱は腕で庇うように「打撃」を防ぐ。
流石に無傷とはいかないが、下手に避けて致命傷を受けるよりはマシだろう。
「何か、無いか……っ」
何か、この状況を脱する方法が。このままではこちらの体力を削られるだけで終わる。
手元の武器は……
一体どう扱えば良いのか、先細りはしているが槍とは違う、独特の形状。片腕で持つには大型、反して細かい部品が見て取れるが――
観察の暇も無い、やや斜めに突出した一本が、ヴィルトを襲う!

ドガァッ!!

咄嗟に引き上げたアイオーンを盾にするも、衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされた!
幸い波が通り過ぎた後の方向へ飛ばされた為、追撃は無く、踏み止まって膝をつく。
「……つ……っ」
防御が精一杯、衝撃を軽減する余裕も無かったので、防いだ手が痺れている。貫かれた左肩も、既に麻痺してきているらしく、感覚が無い。
落とした視線の先に、ぽたりと赤い一滴。苦痛に疼くのは右腕だが、恐らく左の方が傷は大きい。
見上げると、案の定火炎球のダメージは皆無らしい、ウェルツが悠然と微笑んで見下ろしていた。
取り出したままになっていた魔石を握り、ふわっと周囲が淡く緑色に光ったかと思えば、
「……ラインカーム」
気休め程度の回復呪文を呟き、石は捨てる。
続いて、
「ウェルツ!」
戯れでも良い、声を上げた。


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05月13日
00:06

▼ウェルツ▼

――ヴン…

何の変哲もない空間が、突如歪む。そして歪みの中から擦り抜けるように、黒い外套を羽織った長身の男が床に下りた。
「…此処も久しぶりだな」
静かに呟きながら、ウェルツは辺りを軽く一瞥する。
以前彼は此処でベリアウルデと共に、闇に堕ちた神、リツと戦った。
「さて」
ウェルツは続いて歪みの中から現れた青年に向き直る。
「…貴様、名をヴィルトと言ったか。いい判断力を持っているではないか。まずは褒めてやる」
笑みを浮かべ、自らが誘った青年、ヴィルトに近付き腕を伸ばす。
「…さぁ…大人しくしていれば余計な傷を作らずに済むぞ――」

▼ヴィルト▼

そうは言われても大人しく血を吸われてやる義理など無い。
ヴィルトは無意識に銀の前髪を掻き上げ、ついでに差し伸べられた手を払う。
「――はっ。お前に褒められても、何の自慢にもならん」
直前にアルトから投げ渡されたハルバードを無造作に担ぎ直し、
「そもそもオレはお前とやり合うつもりなんざ毛頭無い。ただ、あの場に居るよりは良いだろうから、誘いに乗ってやったんだ」
軽口を叩いてみたは良いが、恐らくウェルツは強い。自分よりは、確実に。
アルトはヴァースから話を聞きはしていたのだろう、あの状況でこれを投げてよこした。何かしらの、足しにはなる筈。
しかし……これも、思っていたよりは、重い。
(……扱い切れるか……)
ウェルツの言からするに、この場を知っているのだろう。特異な力の働く空間ではないことを祈るばかりだが、何にしても情報が少なすぎる。
式典の話は小耳に挟んではいたが、こちらでそういったゴタゴタに関わりたくは無かったことも有り、しっかり話を聞いたことは無かった。
今となっては、悔やまれるのみである。
先程ああは言ったが、何もせず逃がしてくれるとも、思えない。
(……退けられれば、良しとするか)

▼ウェルツ▼
目の前のヴィルトから心地よい緊迫感が伝わってくる。
「くく、やはり貴様は俺が最も楽しめる選択肢を選んでくれるな」
ヴィルトの反応に満足するかのように笑いながら、改めて彼の装備に気を留める。
――刀…右手に見慣れない魔力を秘めた防具…他にも何らかの暗器を用意しているようだ…
「…ふむ…だが、俺とやり合うつもりはないにしても随分と立派な装備ではないか」
ヴィルトが担ぎ直したハルバードは、本来彼が扱うような武器ではない。
≪アイオーン≫はあの場でヴィルトと一緒にいた男、アルトが持っていた武器だ。
恐らくヴィルトの身を案じ、機転を利かせたアルトがワープ空間の中へぶち込んだのだろう。
「――レディ」
ウェルツは指を鳴らしグランドハープ型の魔器≪レディアンス≫を召喚すると地を蹴って後方へ跳び、そのまま浮遊する。
「フン。痛め付けた貴様を貪るついでに、そんな使い慣れん武器で貴様がどこまで俺の相手が出来るのか試してやろう」

『――prestoープレストー!』
高速で奏でられた弦は無数の『♪』型の使い魔をウェルツの周囲に出現させる。
「遊んでやれ」
使い魔≪プレスト≫は牙を剥き蝙蝠の如く群れながらヴィルトを襲う!

▼ヴィルト▼

聞き分けの無い子供の、一つ一つの反応に肩を竦めるような――格上の余裕。
憤りを感じるだけ無駄だ。ウェルツには自分を挑発するつもりなど無いのだから。
そこに在る余裕は、自分との純然たる格差。
品定めでもするかのような視線。
「遣り合うつもりは無い」そんな口先だけの牽制も、見透かされているだろう。構わない。1秒でも2秒でも、時間を稼ぎたかった。
この格差を埋める戦法を、一欠片でいい、糸口を掴みたい。
しかし彼は一時でも早く「遊びたい」のだろう、
『――prestoープレストー!』
思考を遮って流れるアレグレットの旋律。
「好みじゃねぇな……っ」
この速度では反応できないと判断、くるっとアイオーン半回転させると、その刃を地面へ突き立て、刀を抜いて斜めに構える。
爆発でもしたらしたでその時だ――
大振りに横一線、先頭の2体を切っ先が抉ると同時に、万一に備えて後ろへ大きく飛び退る。
しかし降下する2体を飛び越え、何事も無く追随する使い魔達。
「なるほどっ」
これで存分に斬り落とせる。更に一歩下がりかけた足で地を蹴り、こちらから突っ込んでいく!
2体ずつ仕留められるよう角度を調整しつつ袈裟懸け、動きが単調なせいか、造作も無く片付く。
こんなところで体力を削るつもりは無い。右下から切り上げるように薙ぎ、追う右手で一匹掴んで地面に叩き付けた。
先程コイツの口に飛び込んだ時にも感じたが、思うより柔らかい。ボールとは言わないがそれなりに弾力のある質感。
これなら――
手前の一体を落とし、遅れて飛び来る残り十数体を認めると、今度は刀を鞘に収め、アイオーンを手に取った。
「さァて……」
肩に担いで体をひねり、
「御主人様の元へ――帰んなっ!」
両手で持ってフルスイング。
バチンッ、という何処か滑稽な音と共に数体を捉え、ウェルツへ向かって打ち返した!

▼ウェルツ▼

打ち返された使い魔は他の使い魔を幾つか弾き飛ばしながらウェルツに迫る。
「遊びが過ぎるぞ」
バチンッ――パァン!
右手を突出し、眼前に飛んできた使い魔一体をキャッチすると同時に握り潰した。
「何だ、俺とキャッチボールでもしたいのか。ヴィルト?」
宙で軽くターンし、続いて使い魔を二体躱す。

ヴィルトの反応が、とにかく愉快だった。
狙った獲物には興味が湧く。
増してやヴィルトのように、自分に牙を剥いて来る相手なら尚更のこと。
勝敗など、どうでも良かった。
…もっとこいつを暴きたい… 苦痛を与えたい… 喰らい付きたい…  
そんな渇望を実現させる為だけに、ウェルツはヴィルトを観察し続ける。

――次は、ヴィルトはどう対抗してくれるのか…

更にターンし背中で一体を躱すと、続いて手前に飛んできた使い魔の軸を擦れ違い様に右手で掴んだ。
『mesto-メスト-』
小さく呟きながら、振り返り様にウェルツはキャッチした使い魔の旗をハープの弦に掛け弓の弦のように引き伸ばす。
「…さぁ」
パンッ!
矢のように使い魔を発射すると、間髪入れずハープを奏でる。
「受け取れ!」
奏でられる旋律は重力を操作する。生み出された重力の渦はヴィルトの足元にフィールドを展開させ、見えざる圧力が脚を絡め捕り行動の自由を奪う!


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05月02日
11:10

ヴィルト:銀髪、緑の服
ウェルツ:青髪、黒い服


ヴィルト
「洗髪剤について真剣に考えてる自分に気付いて軽く凹んだ。
女じゃないんだからオレ……
暇なんだろうな、良いことだ、うん。そう思うことにしよう」

ウェルツ
「(背後からヴィルトさんの髪を触り) …くく、洗ってやろうか?(邪笑)」

ヴィルト
「(咄嗟に逃げても多分敵わないだろうと思って、敢えて平静装いつつ)
遠慮する。自分の弄んでろ。……何処から湧いた」

ウェルツ
「生憎俺の髪は悩みを知らん故に弄る必要はない。
どこから来ようがいいだろ。それより、この俺が貴様ので遊んでやる、と言ってやっているんだ。有り難く受け入れた方が逆に無難な場合もあるが、どうする?特別に再度訊いてやろう(笑みを浮かべながら更にヴィルトさんに詰め寄る)」

ヴィルト
「人外生物は楽で良いな…。
(にっこり笑って)オレは、お前に、遊ばれたくはないんで。っつか何でオレに構う(解ってはいるけどどう言えば退いてくれるか思い付かず、時間稼ぎ)」

ウェルツ
「(笑みを浮かべるヴィルトさんに)
…何故貴様に構うかだと?愉快だからに決まっているだろ。美しいものを汚す悦び。完璧なものを崩す楽しみが、貴様に解るか?(微笑)
答えはNOか…いいだろう(ニヤリ)
(ヴィルトさんの髪を乱暴に掴み引き寄せると首筋に牙を立てようとする)」

ヴィルト
「ああ、解らんね。きれいなモンはきれいなまま楽しむのがスジじゃねぇのか。
(髪引っ張られて)――っテぇなンの野郎……っ!
(逆に髪掴んでバランスを崩そうとする)」

ウェルツ
「(髪引っ張られて首筋から引き離される)
(睨み付け)やめんか。俺の髪に触れるとは何様のつもりだ、貴様。
(引き離された分引き戻そうと更に強い力でヴィルトさんの髪を引っ張り返す)」

ヴィルト
「お前こそ……――っ、(しゃがみ込む勢いで屈んで、ウェルツを自分にもたせ掛けるようにして、そのまま背負い投げ)
気安くオレの髪触ってんじゃねぇぞコラ(見下ろし目線で。何か口調が荒い)」

ウェルツ
「(抵抗する様子もなく大人しく背負い投げされる。低い位置からなのでダメージは全くないが手を振りほどかれた)
…くく、面白い真似を仕出かしてくれるな。
貴様のことだ、これが更なるリスクを伴う事に繋がるのも、当然解っているんだろう?まさか逃れたとは思っていないだろうな?(そのままの体勢で、横目で嘲笑しながら)」

ヴィルト
「ああ、わかってるさ。とは言え黙って血を吸われるわけにもいかんのでね。
……はっ、ンな体勢で、言ってくれたものだな(と言いつつ、肩辺りを踏ん付けようと……)」
(流石にお子様が居たりほのぼの雰囲気のこの場で、頭行っちゃうのは躊躇ったようです)

ウェルツ
「ふん(微笑)
(肩を踏ん付けられる直前に身を捻って立ち上がる)
いい覚悟だ。解った、貴様に度胸があるのなら、それに免じて“この場”は逃がしてやろう」
(指を鳴らすと2m程の『♪型』の使い魔を召喚、ウェルツが近づくと使い魔が大きく口を開けるが、黒い空間が広がっている)

ウェルツ
「こいつを誘え」
(ウェルツが空間の中に消えると、使い魔が口を開いたままヴィルトさんに猛進する)

ヴィルト
「……な――っ!?
(刀を抜いて一瞬ぶった斬ろうと思ったが、周囲の状況見て、「誘え」の台詞鑑みて)
ああ、くそ、そういうことかよ――っ(中に飛び込みました)」



****************

●ヴィルト(すいません、早くキャラ説明あげますね)

19歳、188cmの、我らがパーティリーダー。
近接戦闘・パワー型。スピードが無いわけではないが「力」に主眼を置いた戦い方をする(シェンガクティやアシュトンも居る為)。
自分が戦うより指揮を執るのが本業だが、戦線に出ても普通に強い。物語中では「刀剣」を携えているが、本来の得意武器は槍などの大型の得物。
本業が「勝つ」ことより「任務遂行」が主な為、その判断は全体的に冷静で合理的。術こそ使えないが、その理論や呪文構成は学んでおり、対処はできるように備えてある。
さらさらストレートの銀髪は、実は結構気を遣っている。
右腕に装備した護符は、魔法キャンセラー(レアアイテム)。中級以下の魔法を無効化(吸収や反射)する。


●ウェルツ

神楽さん宅の「悪役キャラ」。主人公たちに敵対する組織の一員。
(以下、神楽さんの掲げるキャラ紹介コピー)
【性別】男
【身長】198cm
【年齢】28才(人間換算)
【種族】ヴァンパイア
【戦術】魔器レディアンス(グランドハープ)による重力操作等

幼少の頃一人古城に棲み付いていたが、AIMの司教の一人に気に入られ捕獲された。
覚醒者としての能力が開花してからは、組織の中でも上位クラスの実力を持つようになり、現在は彼を拾った司教の側近に就いている。しかしその司教に酷く嫌悪感を抱いているせいか、勤務態度はAIMきっての不真面目で、司教は日々手を焼いている。
AIMの目的に興味はなく、自分の主義・美学に反すると判断すれば同士だろうと容赦なく殺害し、時には敵対勢力の味方も平然とする変わり者。
ちなみに女の血よりも男の血を好んで飲む。



《この話の背景事情》
とある「キャラ交流所」にて。
髪について「つぶやいた」ヴィルトに対して、ウェルツ様からレスが入りました。
上記の、その流れで、何か戦うことに。

実はヴィルト、「新年会(既にUPしてある、和装してた時ですね)トピック」で抵抗する間も無くウェルツ様に血を吸われており、それがどうもいたく彼のお気に召した様子。
今回の流れに至りました。

ご存知ヴィルトは人間。強いことは強いけど…ヴァンパイアや魔族といった、人外生物には比較的弱い傾向にあります。
遠距離から魔法使われると、手が出せないんですよね。
身を案じた同じ交流所のお友達キャラが、ヴィルトに「スタンハルバード」を貸してくださいました。
そのくだりも、このやり取り中にあったんですが、ご本人の許可を得ていない(敢えて無くても大丈夫かなと思い、聞いてもいない)ので、割愛。

スタンハルバード
可変式。五形態。
本来は持ち主の「脳波」を読み取り、変形や術の発動を行うのですが、ヴィルトはその持ち主ではない為、今回はボタンでの変形を行います。
主(私)は作者から機能を聞いていますが、ヴィルトは 知 り ま せ ん 。
可変式であることは聞きましたが、その手順や能力を、全く知らずに、手探りで戦うことになります。
文章内で説明していこうと思うんですが、表現できないところだけ……ハルバードの重さは、基本35kg。最重量形態で45kgです。
ちと苦しい。

当然ながら、うちのヴィルト、神楽さん家のウェルツ様、如月さん家のアルト兄(ハルバードの持ち主)、
全て世界観が違い、科学レベルも魔法理論も異なっているので、多少のバランス崩れがあるかと思います。
その辺、感じさせないようにやっていこうと思いますので、
どうぞ、ご覧ください☆


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